Main Index >> Media Index >> Hail to the Thief Media | Japanese Media | 2004 Interviews
Radiohead



僕らがやってるのは、終わることのない不安というプロセスだ一 かつて卜ム,ヨークは、そんな風に語ったことがある。 レディ才ヘッドとは、繰り返される混乱と創造の歴史に他ならない。 彼らは常に混乱の渦中に飛び込んで、新たな再生を手にしてきた。 今回のカウァ一,ス卜一リーは、『パブロ,ハニ一』以来、 10年以上にわたり、本誌編集長が世界各地で行ってきた、 数々の卜ム,ヨークとの対話からの発言を厳選し、再構成したもの。 故郷の学生街で疎外感に苛まれていた時代から、彼らが 必死になって探してきた「居場所」。この3万字近いテキス卜は、 彼らが、その「居場所」を発見するまでのドキュメントでもある 0 1993 この年、131:アルパム『パブロ,八ニー』収 録曲“クリープ”が、本国イギリスではなく アメリカで大ヒッ卜したことで、学生街才 ックスフォード出身の幼なじみ5人は、外 界からのさまざまな嫉妬や中傷にさらさ れることになつていく。以下のの&八は、ア ルパム,リリース時のロンドン、及び、二度 目のアメリカ,ツアーの最中にロスで行わ れた2本のインタヴューを再構成したも の。もはやこの時点で、ノーム,チヨムスキ 一の名前が挙がっているのも興味深い。 籲では、まず最初に、あなた達の出身地であるオックス フォードでの暮らしについて教えて下さい。 「それなりに楽しくもあったけど、何て言うか、すごくゾ ッとするような町でもあってね。多分、すべてが大学を 中心に動し、てるってことも関係があるんじゃないかな。ト マス,ハーディの『日陰者ジュード』っていう小説があ ってね。何とか大学に入り込もうとして失敗し続けるつ て話なんだけど。これに出てくるオックスフォードの描写 は見事なもんだよ。一軒、未成年の飲酒にあぐらをかい たパブがあって、土曜日になると2〜3百人の若い子が集 まっちゃ、『今日のハ"一ティはどこだ?』って、うろうろ してるっていう。思い出してもうんざりするけど。オック スフォードみたいな威圧的な町じゃ、誰もが力ッコ良く て、天才であるのが当然のように思われるんだよ。秀で たものが何かひとつでもなかったら、もう人間失格の烙 印が押されちゃうわけ。で、そいつが劣等感を抱きがち な性格だったりすると、それが何百倍にも膨れ上がる可 能性は大だっていうかね」 耱じゃあ、"プルーヴ.ユアセルフ”の「僕なんて死んだ 方がマシだ」という下りなどは、まさにそういった心境 を歌ったものなんでしようか。 「ああ、あれは『社会において人間というものが、いかな る意味でも積極的な参加者ではあり得ない』ってことを 歌ってるんだ。でも、このキャラクターは運命に翻弄さ れてるとか、そういうんじや全然ないんだ。僕が言いた かったのは、『何らかの形で社会に関わっていくなり、自 分の言い分を伝えていこうとするんなら、それは他人の 頭に銃を突きつけるような形でしかあり得ない』ってこと なんだよ。残酷な話だけどね。だから、そういう意味の ことを逆から書きたかったんだ」, 參では、そういった意味で、世界は残酷なものだと思い ますか?それとも“クリープ”で歌われているように、 美しいものだと感じていますか? 「世界で一番美しいものというのは、人々が自分以外のも のと紆余曲折しながらも折り合っていくところから生ま れると思うんだ。例えば、美しい建築の何が素晴らしい かって、人間が自分達のための場所を作り出すってこと だと思うんだよ。だから、“クリーブ’なんて、まさにそ ういう意味でポジティヴな歌なんだ。例え、自分が現時 点でどこにも属すことが出来ないとしても、何とかして やろうっていうね。ただ単にメゲてしまって、のたうち回 ってるって歌じやないんだ」 參それっていうのは、客観的観察なんですか?それとも、 自分自身の問題なんですか? 「うん、これはまさに後者かな。勿論、完璧に自伝的な歌 詞ってわけじやないけど」 翁でも、あなたの歌詞っていうのは、非常に自伝的に受 け取られやすい部分がありますよね?あまりに明確な表 現だし、感情的だし。 「うん、確かにね。でも、それが嫌だって人も沢山いるよ。 『お前の書く詞は露骨で凡庸すぎる』って批判されること も多くて、ちょっと傷ついたりもして(笑)。でも、それ こそが狙いなんだからね。『パブロ.ハニー』は、全般的 に露骨すぎるほど明確な表現をしたアルバムなんだよ。そ ういう形にしたかったんだ」 籲アメリカでのツアーは二度目になるわけですが、この 国に対する印象は変わりましたか? 「そうだね、アメリカという国は間違いなくエネルギーを 与えてくれるし、自由な気持ちと想像力を解き放ってく れた。ただ[パブロ.ハニー』を引っさげてもうずいぶん ツアーが続いてるし、疲れ気味。それと最近アメリカの 政治や歴史なんかをいろいろ本で読み始めて、『どうした って病は大きいなあ』って感じざるを得ないんだよ。僕、 チョムスキーって歴史家がすごく好きなんだけど、この 50年間のアメリカの外交政策、特にパナマ、ベトナムあ たりについていろいろ書いている人でさ。その人の本は片 っ端から読んだんだけど、やっぱりアメリカって恐い国だ よ。絶大な力を持っているし、実権を握っている人間は 必ずしも持つべきではないような人々だったりするんだ」 籲それにしても、どうしてあなたは敗者、弱者ばかりを 歌のモチーフに選ぶんでしようか。 「それが当然だからさ。僕らの世代ってのは誰もが負け犬 感党に取り憑かれてるんだよ。僕はただ、それを見たま まに表現しただけ。自分の友人、一緒に学校に通った連 中、アート,カレッジで仲間だった連中なんかをね。ど いつもこいつもみんな自分が駄目な奴だと思ってた。『こ ういう人生にしたい、存分に自己表現をしたい』と思い 描きつつも、それが実現出来ないという恐れに苛まれて たんだ。西洋文化というのは、「何かを外に向けて差し出 さなくてはならない、成功しなくてはならない』という 絶大なプレッシャーを抱えてるんだよ。とにかく何かの 形で、特別な存在にならなければならない。それと同時 に、誰もが幸福でなくちゃならないことになってる。で も、僕に言わせれば、何とかして幸福でなきゃならない なんて、クソッタレだよ!!僕は、その時その時の気分で いたいね。無理して仕事行って、みんなにニコニコして、 密かに歯を嚙みしめてるなんて真っ平だ。ウソなんかつき たかない。つまり、僕はそういう考えにすっかり囚われて るのさ(笑)。で、それをただ歌にするんだよ。それに、 これは80年代、90年代という世代的なものだと思う。僕 らは80年代の大半を学生として過ごした。それはサッチ ャーとレーガンの主張する『買うのは今、支払いは後』っ ていう時代だったからね。ただ、あれなんだよな、「弱者 を励ます』っていう感じじゃないんだよ。むしろ、『何故、 そういう人生に搦めとられてなきゃならないんだ?』って いう苟立ちだな。勿論、『何とかしろよ、男だろ、闘えよ』 みたいなんじゃない。むしろ、その正反対なんだ。『さっ さと逃げ出して、好きなようにやればいいんだよ』ってい うか、単に『くそったれ!』っていうことなんだ」 籲じゃあ、"ストップ,ウイスパリング"は、少し前にシ ーンを賑わせていた、内省的なシューゲイザ一,バンド 達に対するアンチ,テーゼでもあるんでしようか? 「いや、必ずしもそういうわけではないんだけど、関係は あるね。僕ら自身、いわゆるテムズ,ヴアレーの尻尾と して登場したわけだし。ただ連中のギグは、客も傍観者 顔してるっていう雰囲気が強くて、僕はそういうのが耐 えられなかった。だから、小さな声で『眩くの、やめろ』 って歌って、その直後に、『クソバ力あ一っ!』って張り裂 けんばかりの絶叫くらわしたんだ(笑)」 籲じゃあ、以前に、「混乱して、ナルシズムに浸っている ことが、自分の仕事なんだ」と冗談交じりに言ってまし たが、実際のところ、どうなんでしよう? 「まあ、半分冗談だけどさ(笑)。でも、曲作りのある部 分は混乱そのものだからね。ま、スパイナル,タップの 引用でもあるんだけど。『混乱が僕の仕事』って。実際、 僕はそういう奴だからね。ピクニックに出かけた5つのガ 84 81100761^043

キが、みんなにいい子いい子されて、月にも上ったような 気になってるっていう。だから、混乱って、言葉が正確 かどうか、ちょっとわかんないけど。ただ、ともかく『パ ブロ.ハニー』の曲の大半には、複数の物事が自分を多 方向に引っ張ろうとしたり、いろんな人間が意図的に自 分を無視してかかろうとしたりっていう混乱した状況に ついて歌ってる。そんな状況下で、何とか自分を持ちこ たえさせようっていう歌だよ。そう、混乱をどうにかし て突き抜けていこうという意志だね」 籲"ラーギ一”という曲は、すごく不思誰な歌ですよね。 いろいろな感情の揺らぎが表れているのはわかるんです けど、あなたにしては、珍しく非常に抽象的でしょう? 「あ一、元々、ラーギ一っていうのは、病気の名前なんだ けど、小学生なんかがやる追っかけっこ遊びでね。触ら れるとラーギーがうつって、次に誰かにくっつけない限り 離れないっていうやつなんだ。何か昔から、そういう抽象 的な病気の概念が気になっててさ。だから、あの曲の詞 は、わざと謎かけの多い歌詞なんだよ。簡単だけど、は っきりとはわからないっていうね。具体的には、誰かと 付き合ってるせいで、自分が駄目になっていくような状 態に陥ってしまった時に、相手が去って初めて気が付く ことってあるだろ?『なんだ、悪かったのは自分じゃな い、向こうの方だったんだ』って。でも、同時に、僕の 目のことも言ってるんだ」 籲あなたの目? 「左目だよ。生まれた時から瞼がマヒしてたんだ。そのせ いで、今でも、ある程度以上の角度には見上げられない んだ。生まれた時は、險の筋肉がまったく動かなくて、完 全に閉じてた。それで手術して筋肉を入れて開くように したんだよ。でも、最後に受けた手術で、目の表面が傷 付いてしまってね。で、一年間片目に眼帯してて、学校 じゃ、さんざんいじめられたもんさ。最終的に眼帯が取 れた時は、ホン卜にホッとした。こういうことが、直接 的にではないけど、僕があの歌を書いた理由になってる。 でも、詞はあえて、曖昧なものにしたんだ。そういう形 でなきや、自分にはピンと来なかったからね」 0 1994 94年の大半は、ツアーと2门づアルパムの レコーディングに費された。方向性と自信 を見失い、完全に予定を超過したレコ一デ ィングの真っただ中、レディオヘッドは初 の日本ツアーを敢行。そこでの思わぬ歓 待は、次第に彼らに自信を取り戻させてい く。以下の卩&ムは、彼らがジョン,レッキ 一と共にアルパムのレコーディングを行つ ていたロンドンの1=1八にスタジオ、及び、来 日時に川崎クラブチッタの楽屋で行われ たインタヴューを再構成したもの。 癱あなたの曲には、疎外感をモチーフにしたものがかな りあるわけですが、ただ、そうした曲に大勢の人間がコ ネク卜することで一体イ匕してしまうというのは、どこか 悲劇的だと感じたりすることはありますか? 「うん、考えてみれば、その通りだね。今日はいくつか取 材を受けたんだけど、その中の一人が、『"ルーザ一”、“ア イ.ヘイト,マイセルフ,アンド.アイ.ウオン卜,ト ゥ,ダイ”、“クリーブ’といった、いわゆるスラッカー, アンセム(怠け者賛歌)が、今では物笑いの種になりつ つあると思いませんか?』っていう質問をしてきてさ。結 構、ムッとしちゃったよ。確かにジョークになってるのか もしれない。でも、僕がステージに立って、オーディエン スに向かって歌い、オーディエンスが一緒に歌ってくれ ている瞬間は、あの曲はジョークなんかじゃないんだ。で も、これからはそういう受け止め方をされるんだろうなっ ていう気はしてるんだ。ニュー,アルバムの曲を書いてる 時にも、そういうことを感じてた。だから、すごく悲劇 的だという気持ちはするけど……でも、それだけじゃな いっていうか」 春じゃあ、渋谷クアトロでの初日のライヴで、“クリープ" をやった時に、声を詰まらせていたけど、あれはもしかし て泣いていたりしたんですか? 「そう、泣いてたんだ(笑)」 參(笑)やはりあの曲というのは、あなたにとっても特別 な曲なんでしょうか? 「いや、たまたまあの晩は、あの曲でグッときてしまった だけ。でも、“クリーブ’は、本当に多くの思いが込めら れてる曲だから。プレイする度にそういったものが僕達 の中で、どっと蘇ってくるんだ。でも……わかんない。と にかくあの曲は、ここでは話せない、話したくない、いろ んな思いや事情が関わってる曲なんだ。それに、あの頃 の僕にとって“クリープ"を書くというのは、すごく重要 なことだった。なのに、それが今じゃ、ジョークにまで成 り下がってしまったっていう」 春では、ここ十数年で、我々が身に付けてしまった病の ひとつに、60、70年代には存在した、未来に対する確信 を失ってしまったことが挙げられると思います。あなた自 身が、この世界の未来を視いてみた時、そこは発展や希 望のない場所だと感じられたりしますか? 「ノー、ノー!その正反対だよ!でも……。でも、まさ しくそれが僕の抱えてる難題なんだ。みんな僕のことを、 朝起きても、「ああ、もういやだ。家に帰りたい』なんて 言ってる、やる気のないロクデナシだと思ってる。だけ ど、本当は、全然そうじゃないんだよ。ほら、誰もがテ クノロジーや都市化が、人々の孤立化を招いてるって言 う。そのことで、未来に対する希望が持てなくなってし まったって言う。確かにそうなんだけど、でも、実は、そ の未来っていうのは、自分のすぐ目の前にあるものなん だ。ただ、それが見えなくなってしまっているだけなんだ よ。僕達は、自分の中の感情的な側面から、あまりにも 切り離されてしまっているから、それが目に見えないん だ。どうして僕達は、自分達に怒鳴り散らしてくる奴を、 きちんと蹴散らすことが出来ないのか?一それは僕達自 身、自分の感情というものが、何なのかわからなくなっ てしまっているからなんだ。だから、今の僕は、自分の 感情っていうものの正体一それさえわかるようになれ ば、どんな問題でも解決出来ると思ってる。何かすごく 偉そうに聞こえるけどさ(笑)。でも、デビューする前の 僕は、そんな風には考えることが出来なかったんだ。で も、この2年間でいろんな経験をするうちに、どんどんそ ういう気持ちが大きくなってきて^―多分、ベン,オク リの本を読んでるせいもあるのかもしんないけど。そし て、そのことを、曲にすべきだという自覚も強まってき てるんだよ。まあ、だからと言って、“ギヴ,ピース, ア,チャンス”を窨くつもりは毛頭ないけどね」 春ところで、この前、ロンドンであなたと話した日の夜、 カー卜,コバーンの自殺が伝えられました。ただ彼も、あ なたが言うところの“幸福のマーケティング”の犠牲者 の一人だという言い方は、出来ると思いませんか? 「う〜ん、僕なんかが世代について語るなんて、何か滑稽 な気がするんだけど。ただ、ひとつ言えるのは、僕くらい の歳の世代って、お互いを結びつける接点みたいなもの を何ひとつ持っていないってことなんだ。何が起きても、 そこには自分独りしかいないし、何もかもが孤独の中で 存在し、孤独が僕達を!Vやラジオに結び付けている。“レ ディオヘッド”っていう名前も、そこから来ていて、僕 達は周囲から与えられたものを何でもかんでも貯蔵する 容器でしかなくて、大抵の場合、与えられたものをその まま内面化することで応答しているんだ。なぜなら、外 面化して、誰かと分かち合うことは出来ないからだよ。僕 達の世代には、共有とか、幸福といった概念が存在しな いんだ。すべてはマーケティングの対象にされてしまっ た。その結果、今では若者の発言力は、おそらく50年代 よりも弱まってしまっているんだ」 癱では、最後に、カー卜,コバーンが遺書に引用したニ —ル,ヤングの"ヘイ,ヘイ,マイ,マイ”の一節一一 「だんだん消えていく くらいなら、燃え尽きたほうがマシ だ」に対して、あなたはどういう立場を取るか、教えて 下さい。 「一気に燃え尽きたいか……。うん、そうだね。僕も今ち ようど、炎に包まれてる最中なわけなんだけど……。で も、ほら、ニール,ヤングは、まだこの世から消えちゃい ないだろ?(笑)」 1995 31 2“アルバム『ザ,ベンズ』は、彼らを90 年代におけるもっとも重要なパンドへと押 し上げるきっかけとなった、金字塔的な傑 作だ。以下の01&八は、彼らの故郷オックス フォードにある、かつてオスカー,ワイルド が何年も宿泊していたホテルの一室で行 なわれた会話からの抜粋だ。「これから先、 僕らもスI^ーン,ローゼズみたいに『他の 人間はまったく関係ない』って感じのバン ドになっていく気がするんだ』という、卜 ム,ヨークの予感は、見事に的中する。 耱“ザ-ベンズ"は初期レディオヘッドを象徴する、集 大成的な作品だと思います。ただ、この曲のタイトルを アルバム,タイ卜ルに持ってきたのには、この言葉に何 か象徴的なものを感じているからなんでしようか? 「あれはジョニーの選択なんだよ。あいつがいろいろ候補 を出してきて、その中では“アンサーフォン(留守番電 話)”っていうのが僕の推しだったんだけど、どうしても ぴったりこなくてね。それに、すでに沢山のキーワード がアルバムにはあったから、その上に新たな言葉を付け 足すことはしたくなかったんだ。で、"ベンズ"っていう 言葉が、潜水病のことだって知ってからは、『これしかな い』って感じがした。急に浮上しすぎたがゆえの窒息死 結構、壮絶だよな(笑)。あの詞は、ロンドンから 81100261,#043 85

ならない、不条理な社会に閉じ込められた我々のメタ ファ一なのでしょうか。 「気味が悪いほど正確な解釈だね。ありがとう」 尊日本人が写真を撮る時の、「ハイ、チーズ!」という フレーズを初めて知った時、どんな感想を持った? そこから受け取った、何かしらの日本人観があれば教 えてください。 「僕はほんとに镟いた。日本ではそういう時、まったく 違うことを言うだろうと思ってたから。イギリスでは、 みんな『セイ,チーズ』って言うんだ。理由は知らな い。もう一つ、ポートレート.フォ卜グラフア一が 時々使うのが、『ウォッチ.ザ,バーディ(鳥を見て)』 なんだけど、これも理由はまったくわからない。それ ってどの烏?どんな種類のチーズなんだ?」 鲁あなたから見た、日本文化の可能性と問題点を指摘 して下さい。 「日本のことはよく知らないんだ。一度しか行ったこと がないから。好きなところも沢山あるけど、テクノロ ジー的な現代性は、僕には奇妙だった。ある意味それ も好きなんだけど、同時になんか怖い。僕の中にはど こか、森で暮らして火を起こして、っていうのを望ん でるところがあるから。問題点はわからないな。ない のかもしれない」 參トムとあなたのコラボレーションの、明確な分業と いうのは、存在するのでしょうか? 「分業?意味がわからない。次の質問!」 鲁『ヘイル.トウ.ザ.シーフ』のアートワークにお ける、今も殺戮が続く場所の地図の上に羅列された言 葉の“ダブル,シンク:二重思考”というアイデアは、 どんな風にして出てきたのでしょうか? 「あの地図がすべて、今紛争が起きてる場所とは限ら ない。全部、紛争が起こりえる場所なんだ。アイデア 3*0111107 010111^0001 卜ム,ヨークの学生時代からの友人であり、『ザ,ベンズ』以降、 レディオヘッド関連のヴィジュアルの大半を手掛けているのが、 この、卜ムの精神的双子のような存在、スタンリー,ダンウッド。 彼に、日本編集盤しム6』のアートワークを中心に、 モディファイド,ベアなど、数々のキャラについて訊いてみました 參この「001^/1し^0」というタイトルのアイデアは、 そもそもどういったところから出てきたのでしようか。 「残念ながら、それはレディオヘッドの"口外無用の オフィシャル,シークレット”が管理するところにあ たる。もし僕が話したら、マネジメントに厳しく罰さ れるだろうし、イギリス東部のさびれた海岸に追放さ れて、そこでずっと花の小さな水彩画を描くことにも なりかねない。永遠にね」 癱以前も日本企画盤のミニ,アルバム『ノー.サブラ イゼズ』には、1^1X18 13パ1^11^1-^1.8111^1八1从云0 八丁 丁㈠已」八!3パ!VI日3日IV!八0ド5丁.(これは日本のマ ーケッ卜を狙ったミニ,アルバムである)」というサブ タイトルがついていました。こうした一連のフレーズ は、自分達の作品もマーケティングのコマの一つであ ることからは逃れられない、という自虐的なユーモア を含んでいるのでしようか? 「アメリカのミニ,アルバムには、『このレコ一ドは 113八を狙ったものである』ってサブタイトルを付けた んだ。これも自虐的ユーモアかどうか、僕にはわから ないんだけど。僕自身はレコ一ドを狙ってるわけじゃ ない。そういうのって、どこか暗い部屋で、ひそかに 働いてる男達や女達に決められることなんだ。個人的 には、僕は自分の作品がマーケティング.ツールとし て使われてるのに満足してる。だって、猫のトイレの 砂代わりに使われることだってありえるから。そっち の方がいやだよね」 參今回のアートワークに使われていて、98、9年から レディオへッド関連のヴィジュアルに登場してきた、 1\;1日ニモディファイド‘ベアというキャラクタ一のア イデアは、そもそもどんなところから出てきたのでし ょラ? 「モディファイド,ベアは、遺伝子的に操作されたテ ディベア。染色体の配列が変えられたことで、どんな 副作用があるかは誰にも予測出来ないし、まだわから ないんだ。新しいモディファイド,ベアには良からぬ 癖があって、飼い主に刃向かったり、暴力的な行動を 見せたり、とてつもない嘘をついたりする。でも一般 的に言えるのは、熊を遺伝子操作すると、大きな鋭い 歯が生えるようになるんだ。僕はもともと、娘を軎ば せるためにこれを描いたんだけど、今はもう大きくな ってどうでもいいみたい」 會このキャラと、『アムニージアック」の収録曲"ハン ティング.ペアーズ1’に関連はあるのですか? 「全然。僕が思うに、“ハンティング.ペアーズ(熊狩 り广っていうのは子供と遊ぶゲーム。森に散歩に連れ ていく時のね。子供も僕も実際に、ほんとに熊を見つ けたくはない、って強く思ってるわけだけど。そうな ったらすごく恐ろしいし、たぶんめちやくちやに危険 だから」 籲同じく、今回のアートワークにも登場している、自 分の周りに精子をまき散らしている「03?丁」という キャラクターのアイデアは、そもそもどういうものだ ったのでしょうか? 「このクリーチャーはモディファイド,ベアよりさらに ひどい。さらに歯が大きくて、さらに巨大で、ず一っ と邪悪なんだ。その結果、モディファイド,ベアが一 つ役に立つのは、そういうやつと戦えることだ、って ことがわかった。03ド丁は遺伝子操作された人間の精 子をまき散らす。それがどんなことを引き起こすか、 誰にわかると思う?」 籲この「08?丁」は何の略? 「065;30卜暴君」 鲁『キッド八』のアートワークと同じ、ピラミッド状 の山脈も見受けられますが、これには具体的なモチー フがあるのでしょうか?それとも何かのメタファー? 「あれは未来の山脈。未来では、山はずっと尖ってい てみすぼらしいんだ。そんな山々が続くと、まるでキ ャスパ一,デヴィッド.フリードリッヒが描いた風景 の中で暮らすようなことになる。横になれる場所もな いし、飛行機を着陸させるのも大変。鋭くそびえてる から、雪も積もらない。次の氷河期が到来して、巨大 な氷河に押しつぶされるまではね」 籲その向こう側に見える、古代風の城は何かのメタフ ァーなのでしょうか。 「あの城は飾り。見ると、ゴシック,ロマンスのフィ一 リングをかき立てられない?このレコードのアートワ ークは、オランダの陶器にインスパイアされたんだ。 デルフトウェアって呼ばれることもあって、大抵は白 い陶器の上に青の模様が描かれてるやつ。もちろん、 オランダの模様には、モディファイド.ベアがカメラ を構えるふりをして、精子をまき散らす03卩丁を機関 銃で撃ってる一なんてデザインはないけど」 攀『アムニージアック』の涙を流すミノタウルスは、 今この瞬間も間接的ジェノサイドに手を染めなければ 86 81100201^043

の一つは、恐怖から守られた、本当に安全な場所 なんてどこにもないんだ、ってこと。色は本当に ミニマルにした——明るいケミカル,カラーが5 色に、黒と白。もともとはロサンゼルスの広告に 使われてる、文字や記号にインスパイアされてる んだ。ほとんど全部、そういう色しか使ってない ように見えるんだよね。僕は自分が描くものの意 味や理由、方法についてすごくいろんなことを考 えるんだけど、それを全部話したら、ほんとに退 屈させてしまうと思う」 春あなたとトムは、村上春樹のファンだと理解し ています。彼の作品のどんな点に惹かれるのか教 えて下さい。 「彼の井戸に対するオブセッションが好き。早く 新作がイギリスで出版されるといいんだけど。ず っと待ってるんだ。『神の子どもたちはみな踊る』 はファンタスティックだ。僕が好きなのは、『世 界の終わりとハードボイルド,ワンダーランド」 か、[ねじまき鳥クロニクル』のどっちか。彼に 僕が窨いた本を送りたいんだけど、どうすればい いかわからなくて」 籲トム特有のブラック,ジョークやユーモアを、 ただシリアスなだけのものとして捉えるむきに対 して、どんな感想を持っているか。 「クモの巣をたくさんつなげれば、ライオンだっ てつかまえられる」 參作品に向かう際の、あなたにとって最大のオブ セッションは? 「僕、すごく出来のいい仕事をやったみたいだね」 參作品に向かう際の、あなた自身が取り決めてい るゲームの規則があれば教えて下さい。 「ズルすること。はは!じゃあね」 0 帰ってきて、一気に書いたものなんだけど。あの頃って、 僕ら、バンド内部でも周囲の人間とも、どうも人間関係 がうまくいってなかったんだ。とにかく僕はどんどん正常 な環境から、切り離されてきてるような気がしててね。最 近、インタヴューでよく聞かれるんだけどさ、『君達って、 今でもお茶を飲みながら、卜ランプに興じる、お上品な 青年の集まりなの?』って。で、答えに詰まってしまうん だよね。『え一と、実はもう違うんです』って(笑)。い や、そうと言えばそうかもしれないけど。とにかく長い 間、僕らは“何か違うもの’’に成り代わってしまうのを、 ものすごく恐れてたんだ。レデイオへッドみたいな連中 も、やがてはロックンロールの怪物に化けるんだろうか って、みんな興味津々で眺めてただろ?そして、気が付 いたら、実際に、それが自分達の身に起こり始めてた。だ から、そのことを、ある程度は認めなきゃならなかった っていう思し、もあの歌には含まれてる。『これが60年代だ ったら』っていうフレーズも、そこと関係あるんだ。60 年代のバンドはみんな怪物みたいな振る舞いをしてたけ ど、実際にはどうだったんだろうか、少なくとも彼らは 僕らとは違って、もっと人生を楽しんでるように見えた ……。でも、ある程度まで、『自分達も化け物になったな あ』って受け入れてしまったら、かえって自由に身動き がとれるようになったって感じなんだよ。とにかく、この アルバムを聴き返した途端にわかったんだ。自分達が経 過してきたことには充分に意味があったんだってね。結 局、僕らはこの5人でポップ,バンドとして世界中を回り 続け、小さな泡の中でぎゅうぎゅうにくっついて、時には 飽和状態になって、わめき叫んだりするもんなんだって ことがね。だから、今、ストーン,ローゼズみたいなバン ドを本当に尊敬する。彼らって、本当に4人だけで、世界 中の他の人間はまったく関係ないじやないか?あれはな かなか凄いと思うなあ。でも今後、僕らも、だんだんそ ういう風になっていくって気がしてるんだよ」 參じゃあ、“マイ,アイアン,ラング”で「怖いと思う時 は怯えてしまって構わないんだ、そういう時もある、怯え たっていい」とあなたが歌っているのは、ネガテイヴな感 ,隋は恥じるべきものなんかじゃない、ということなんでし ょぅか? 「フウーッ……。それこそ僕が今、言われてみたいことだ けど(笑)。素敵だよね、誰かが向こうから歩いてきて、 『いいんだよ、怯えてても』って言ってくれたら。うん、 だからこれは自分で自分を安心させようとしたってとこ かな。いいじゃん、こういうキマりにキマった文句を掲 げるのって。壁一面でっかいポスターにして、張り出せ たらよかったのにな(笑)」 參ところで、アメリカの[スピン』誌に載った、『ザ.ベ ンズ」のレヴューは、「もっと生身に、もっと裸になって 欲しい」というものだったんだけど、そういう意見を耳 にしたりすると、やっぱり憂想になるもの? 「いや、僕は(耳を塞いで)『ラ〜ララ〜』って歌うだけの 話だからさ(笑)。とにかく僕は他人の意見に対する反動 のような形で作品を害きたくない。ただ、『ザ,ベンズ』 の歌詞には、僕を"陰気臭い野郎”だと思ってる連中に 対する当てつけも少なからず含まれてる。ところが、僕に は単純にひとつの反発としてああいうことを書きたかっ たのか、あるいは心の底からああいうものが害きたかった のか、よくわからなくなってるんだよね(笑)。ただ確か で自分をさらしたくないってこと。僕はもっとありのま まの自分でいたい。でも、そんな風にして完成させた作 品について、『これは優れた作品だ』と評価してくれたプ レス連中も幸いにもいたわけでさ。おかげで僕は自分達 のやってることについて自信を持てるようになったとき てる。ということは、またプレスに左右されちゃったわ け(笑)。とにかく僕らがやってるのは、終わることのな い不安というプロセスだと思うんだ。そんなことは今さ ら言うことでもないかもしれないし、そうでなくても不安 は他にもゴロゴロ転がっているんだけどね。とにかく、そ うしたもののせいで一時はもう気が狂し、そうになったん だょ」 參以前、ジュリアン,コープは自分のアイドル、スコッ 卜,ウォーカーについて「彼は自分の人生を、形而上学 的に考えすぎたために苦しんだんだ」と言っていたんです が、あなたの場合、自分の信念や、実在そのものが自分 を苦しめることがありますか? 「ああ、もちろんね。それってさ、自分がやってきたもの をすベて嫌悪する形で表れるものなんだ。『もう嫌だ、ど っか人里離れた丘の上でこれからは基らすことにしよう』 なんて考えたりするくらいにね。例えば、ジュリアン,コ ープなんかはいつも、出来る限り違うことをやりたいと 死ぬほど苦しんでる。でも、それは出来ないし、何をや っても必ずジュリアン,コープになってしまう。それと同 じように僕はいつだってトムヨークで、僕達はレデ ィオへッドでしかあり得ない。そのせいで気が狂いそうに もなったりするんだろうけど、それ以外にやりようがな いんだから仕方ないと思うんだ。結局、僕は僕でしかな いんだからね。でもね、スコット,ウォーカーに関して言 うなら、とにかく彼の作品にはすごく ロマンティックな 雰囲気があって、誰もがそれに感動すると思うんだ。し かも自分の中にしっかりと組み込まれているにも関わら ず、自分では認めたくないものをスコット.ウォーカー のレコ一ドの中に発見して驚くんだよ。それで『何だ、こ れって恥ずかしいことじゃなかったんだ』って気付くこ とになるんだ。僕もスコッ卜,ウォーカーのレコードを聴 いて、『何だ、こういう風に歌っても別に構わなかったの か』って気付かされたクチでさ。っていうのも、僕はあ あいうロマンティックな資質を出来るだけ隠そうとして たからね。だから、スコット,ウォーカ一を初めて聴いた 時には、やっぱり冗談としか思えなかったんだ(笑)。だ から僕にとってスコットの魅力とは、ひとえにあのヴォ 一力ルなんだよね」 籲そう首えば、レディオヘッドの場合、あなたのヴォー カルに対する好き嫌いがそのままバンドの好き嫌いに直結 する傾向があると思うんだけど、それって何故だと思い ます? 「ねえ、どうしてなんだろうねぇ。ま、自分じゃこの声は 相変わらず嫌いなんだけどなあ。違った声になりたいと 思うよ。けれども、自分を発見するという意味じゃ、こ の声はすごく重要だったから……。でも、何だかどっか に埋めちゃいたいような声なのに変わりはないけど。た だ、どうにも辟易しちゃうのは、僕がホント口先だけで 適当に歌ってみても、心から情熱的に歌ってると勘違い されちまうってことなんだよね。超いい加減に歌ってみ ても、人によっては心底誠実に歌ってると受け取ってし まうみたいなんだよ。で、これって少しばかりゾッとする なのは、もう『ザ.ベンズ』の時のようなネガティヴな形話なんだよね」

1995 31 彼らがすべてを注ぎ込んだ渾身の1枚 『ザ,ベンズ』は、アメリカでは商業的に惨 敗。本国イギリスでも、当初は、オアシス、 ブラーを筆頭とするブリッ卜ポップ騒ぎに かき消され、ほぼ無視された形に。だが、 リリース後、1年以上も経った頃から次第 に評価と人気が高まっていく。二度目の日 本ツアーの際、東京にて行なわれた以下 の八は、その後、卜ム,ヨークが傾倒し ていくことになる状況主義的なアプローチ の芽生えについて語っている貴重なもの。 參今回のステージで、あなた達が"エニイワン,キャン, プレイ,ギター"を演奏した時に、「僕は、バンドをやっ ていたいんだ」という歌詞を、「僕は、このバンドにいた いんだ」と風に、あなたが変えてたように聞こえたんだけ ど一0 「うん、ちゃんと“イン.ジス.バンド”って歌詞に変え て歌ったよ。そう、一度、ドイツで間違えて、あんな風 に歌っちゃったら、ものすごく気持ち良くてさ。それに、 その方が、歌詞としても全然ハマってると思ったから、そ れ以来“イン,ジス,バンド”って歌うことにしたんだ。 でも、まさかそんなとこまで聴いてる奴なんていないと思 ったよ(笑)」 參エド日く、「アルバム『ザ.ベンズ』を出した当時、自 分達が一番強く感じている感党というのは、“キラー,力 ーズ"に集約されている」と言っていました。これはつ まり、世界はすごく乱暴な連中が溢れていて、いつ殺さ れても仕方ないという感党が、当時、あなた達の感じて いたことだったんでしようか? 「うん、つまり、いつでも僕らは笑っちゃうしかないくら い非力だ、ってことをね。どんなに愛してる人でも、い とも簡単に失ってしまう一僕らが自分達のために発明 して、ごまんとある機械によってね。例えば、僕は本当 に飛行機に乗るのが嫌いなんだ。墜落するかもしれない、 という強迫観念に苛まれてしまう。墜落したらもう一巻 の終わりだろ?そもそもがファースト,クラスに乗って る人しか助からない仕組みになってるんだぜ」 參じゃあ、次の質問です。あなたは今でも、6*6,力ミ ングスを愛する文学少年なんでしょうか?(笑)。 「あ一?(笑)、ああ、そうだよ(笑)。いや、真面目な話、 取りあえず最近は、レイモンド,カーヴァーが好きなん だ。と言っても、詩の方だけでね。カーヴァーは散文の 方が有名だろ?でも、僕は詩の方が好きでさ。それと60 年代の状況主義についての本を読んでる。そのうち一冊 は、「見せ物としての社会』っていう、ギ一,デボーって いう人が害いたもので、もうひとつは参考書みたいな本。 例えば、『見せ物としての社会』は、生けるものはすべて 見せ物であり、人の日常などはさしたる意味はないって いう内容でさ。っまり、IV、広告、本、雑誌などを通じ て見せ物にならない限り、どんなものも意味はない、そ して、それ以外のものはすべてそのバランスをとるため のものにすぎないっていうね」 癱状況主義とロックの関わりと言うと、僕が思い出すの はマルコム,マクラーレンだったりするんだけど一。 「うん、わかるわがる。ただ、僕がこういうものをどうし て読んでるのかというと、自分の周囲にあるものに対す る解読の仕方として、ものすごく面白いからなんだ。例 えば、アメリカじや、沢山の人達に言われたんだ。僕達 が本当に気持ちを込めてるからすごく好きなんだ、とね。 でも、みんなが"情熱的”と思えた部分っていうのは、実 は僕にはさほど情熱的でもなかったりすることもあって さ。つまり、ひょっとしたら、僕は嘘をついてるかもしれ ないってこと。それも自分じやわかってる。つまり、ス ベクタクル(見せ物)と本当に生きた体験との間のギャ ップというか。だからさ、僕達なんて本当に生きてるわ けじやないってことでさ。そうだろ?すべてがもう使い 古しの追体験の人生なんだよ。特にひどくなると、人は よく!Vとか広告に描かれているものが自分達の感情より ももっとリアルなものなんだと勘違いしてしまう。要す るに、そうなっちやうと、レディオヘッドが人々の感情 よりもリアルってことになってしまう。でも、それは完璧 に間違ってるんだ。ただ僕にはそれをどうやって打ち壊 したらいいのか、わからないんだよ。いずれにせよ、間違 つた方向に転がる可能性はいくらでもあるわけだよね」 1997 ^ 0」シャドウ、マイルス.デイヴィス、エンニ ^才,モリコーネといった非ロック音楽から のさまざまな刺激を咀嚼した、3「01アルパ |ム『0にコンピューター』は、その後、この 今97年を代表することになる破格の怪物ア ルパムだ。以下の0&バは、全世界で1本 ~目のインタヴューとして行われた、オック スフォード郊外の卜ム,ヨーク自宅での2 ^時間余りの会話からの抜粋だ。"クリープ" 以来のテーマ一「居場所」が、どのよう な変遷を迪っていったかがよくわかる。 籲この「0ドコンピュータ一』というアルバムは、世間の 潮流というか、特に英国ポップ,シーンで起こっている こととは、ほぼ無関係なところで出来上がった作品だと いう印象を持っています。これは、意識した結果ですか? それとも、自分に正直であっただけですか? 「どうかなあ……。でも、そういう風に意図したところは、 まったくなかったと思う。最初、このアルバムの制作を 開始した頃は、僕はコンピュータを使うっていうアイデ アにすっかりはまってたんだよ。で、実際にやってみた ら、とんでもなく退屈な代物だった(笑)。ただ、もし世 に潮流というものがあるとして、いかにも僕らがやって おかしくなかった卜レンドっていうのは、そういうコンビ ュータ系の音にどっぶり浸かりきった方向に行くってこ とだったと思うんだ。僕ら全員、一昔前の卜リップホッ プものの強烈なフアンだったわけだからね。『ザ,ベンズ1 が出た直後に、ポーティスヘッドのアルバムが出た時、僕 らみんな、『し、しまった一!!やられた!!』って思ったも んね(笑)。でも、僕らの関心っていうのは、映画音楽と か、他の方向にもあったから。ただ、コンピュータやサ ンブラ一を使うことに関しては、単に昔からやってみたか ったんだよ(笑Iほら、だってさ、9996のロック.ミュ ージシャンは、とっくに死に絶えているわけだし、死に絶 えてて当然のようなものだしね。だから、時々、思つち ゃうんだよ一『じゃあ、一体どうして、まだ俺、こん なことやってんだ?』って(笑)。勿論、まだやってる理 由ってのは、ちゃんとあってね。ひとつの部屋で、みん なで演奏してる時に出てくる、予想もつかないハプニン グっていうか。それが面白くってしょうがないんだよね。 ただ、僕が思うに、コンピュータっていうのは、ハ,ンクと 同じようなものなんだ。で、ハ8ンクとまったく同じく、そ の大半はゴミみたいなもので、耐え難くつまらない(笑)。 でも、現在の自分達の存在する場所を示すってことに関 しては、自分達がロック.バンドとして、どれだけロッ クかってことを証明して回るより、コンピュータを使う ことの方がよっぽどふさわしI、方法だと思、うんだよ」 籲例えば、前作『ザ,ベンズ]には、ほぼギターと歌だ けという、シンプルなプロダクシヨンを目指した楽曲が いくつかありました。ただ、今回の場合、“エグジット. ミュージック”のような、基本がギター1本の弾き語りの 曲にさえ、ミュージック,コンクレート風のサンプルが使 われている。でも、以前みたいに、シンプルな形でレコ 一ディングすることも出来たと思うんだよね。 「出来たね。もし、そうやってたら、金持ちにもなれてた かもね(笑)。うん、そうだね。君の言ってることは正し いよ。そうそう、今回、僕らがやったことっていうのは、 機材に物凄くお金をかけたってことなんだ(笑)」 春またあ(笑)。 「いや、マジ、マジ(笑)。で、機材を部屋の中に運び込 んでセットしたら、これが、すごくカッコ良く見えたんだ よね。何か科学者の夢に出てくるような感じでさ。でも、 肝心の使い方は、まったく知らなかった(笑)。そう、 『0ドコンピューター』っていうのは、僕らはオモチャに 囲まれた子供のようだったっていうことなんだよね。そ れに比べると、『ザ.ベンズ』は、『俺達はロック.バンド だぜ!』って証明してるようなアルバムだった。それと、 “エグジット,ミュージック”は、いろんな意味で、物凄 く気恥ずかしいものが込められている曲なんだ。実際、初 めの頃のテイクは、すごく芝居がかっていて、やり過ぎ な感じに聞こえたんだよ。で、僕ら5人やナイジェルは、 何かもっと別な感じにならないかって考えてた。それで、 まあ、結果的になんだけど、サンプラーっていうのは、そ れを解決するもっともいI、方法だったと思うんだ」 鲁じゃあ、ここ数年、ブラーのようなバンドが得意とし た、キャラクターと物語を作り上げる短編小説作家的な ソングライティングと、現在のあなたのソングライティ ング方法の間に接点はあると思う? 「多分、『0ドコンピュータ一』っていうのは、僕自身が、 歌詞に出てくる僕以外のキャラクターに攻め立てられる ことについての作品だと思うんだ。そう、一時期の僕は、 『お前が誰であれ、お前はまったく不必要な存在で、つま らない人間だ』って風に、攻め立てられるような気がし てた。この惑星上のどこに行っても、そういう感党はあ るんだって思い知らされてたんだ。で、すっかり感覚が 麻痺してしまって、もう何も害けないような状態になり かかった時、突然、逆に僕自身が吸収すべきことや軎き たいことが、山のようにあるような気がしだしたんだよ。 ところが、いざ香いてみたら、それは僕とは何の関係も なくて、すべてまったくの赤の他人に関することだった んだよね。例えば、“クライミング,アップ,ザ,ウォー ルズ"なんだけどね一ある時、僕、スコットランドのホ テルにいたんだけど、そこである家族について書かれた 88 81100261^#043

記事をずっと読んでたんだ。ある家族の母親とその娘が、 物凄く恐ろしい方法で惨殺されたっていう事件について の記事。で、その犯人というのが、おそらくアシッドか 何かやってて、精神的に不安定な奴でさ。こん棒か何か で、彼女達のことを殺したらしいんだ。その記事を読ん だ時、「実は、僕自身がその殺人犯なんじゃないか?』っ て感じがして、その感党がどうしても拭えなくなっちゃ ったんだよ。だから、“クライミング,アップ,ザ,ウォ 一ルズ"は、誰かが君の家にやって来て、殺人を犯すっ ていう歌なわけだけど、もしかしたら君自身がその犯人 なのかもしれないし、君が被害者かもしれない。そうい う構造を持った作品なんだ。だから、このアルバムの曲 に特徴らしきものがあるとしたら、そこにはプロテクシ ヨン(保護)が働いていたってことだと思うんだ。つま り、このアルバムに起こっていることっていうのは、『感 情を保護するってこととか、感情そのものを直接、扱わ ないってこと、感情をリスナーと分かち合うことをよし としないってこと』なんだよ」 奉で、僕自身がアルバム全体の感党、そして、アルバム のタイトルから受け取ったのは、システムの中にどっぶり はまることに対する心地よさ、それと同時に、システム の一部になってしまうことの弊害から逃れたいという気 持ち一その相反する感情なんだよね。 「クール!そいっは、僕の表現よりずっと的確だ」 參(笑)例えば、オープニング.ナンバーの"エアバッ ク"1をとってみても、車にエアバッグが付いてるってこと でもたらされる安心感と、いや、そんなものは自動車会 社のマーケティングの一環でしかなくて、そんなものの 付いた車は買いたくないという、この両方の感情が感じ 取れる。 「そうだね。安心感という名の幻想ってやつ。飛行機に乗 って、緊急脱出法とかを見せられると、『ああ、もう何て 役に立ちそうなんだろう!』とかって思うだろ(笑)。そう いうことだよね。で、今回のアルバムで言ってるような ことっていうのは、少しずつ少しずつ僕の中で膨らんでき たものっていうか。いろいろ読んでた本なんかの影響も あって、少しずっ蓄積されたものだったことがまずある。 エアバッグだとか、飛行機の緊急脱出マニュアルといっ たものが、いかに自分を傷付けるかがわかり始めたんだ。 もう既に自分達がそういったシステムの、動かしがたい ―部になってしまった今となってしまっては、なおさら ね。おまけに僕ら、丁Vの向こう側の人間になっちまった わけでさ。つまり、このアルバムが扱っているのは、居心 地の悪さ、不安感ということだね。ただ、この、“エアバ ッグ"って曲は、最初はビヨークみたいな曲を作るつも りでいたんだよ。満面に笑顔で、『うわ〜い』とかって言 って、天を舞ってるような曲っていうか。ホント純粋に そういうのが作りたかったんだ。だけど、とんでもない方 向に行っちゃったんだ(笑)」 參じゃあ、このアルバムの曲というのは、アメリカ.ツア 一の反映という部分は大きいと思いますか? 「うん、アメリカだけじゃなくて、ツアー全般の反映だけ どね。まあ、でも、アメリカっていうのは、取り上げる意 味のある土地だよね。アメリカって、第一次大戦以降は、 ほとんど世界を牛耳ってきた政治的国家権力だし、もっ とも強くてもっとも豊かな国なわけでね。でも、同時に、 信じられないくらい腐ってる(笑)。で、その余韻ってい どの国も、ある程度までアメリカをモデルにして成長し てきたところがあるからね。この、資本主義システムっ ていうかさ。僕が子供だった70年代には、アメリカの、 たまらなく大きくて美しいっていうイメージがはびこりま くってた。全校中で一番ラッキーな子供っていうのは、デ ィズニーランドに行ったことのある子だったわけださ(笑)。 それが冗談でも何でもなかったんだから」 籲これは僕の視点です。『ザ.ベンズ』というアルバムは、 自分達が呼吸しやすくなるような場所を作り出すんだ、と いうアルバムだったと思います。 「ああ、その通り。うん、ぬくぬくした居心地の良さって いうか、そういうのだよね」 鲁それに対して、このアルバムっていうのは、自分達が どれだけ混乱していようが、何かに巻き込まれて、ポロ ポロになっていようが、その事実を誇りを持って示して いる、そんな作品という印象があります。 「うん。このアルバムの仕上げにかかってる時に、毎夜、 眠れなくてね。で、どうして、そんな状態になったかっ ていうと、このアルバムが僕にとって少しも慰みにならな かったからなんだ。そう、『ベンズ』のいいところは、あ の居心地の良さにあるんだよね。でも、このアルパムは 違う。全然、慰めにならないアルバムなんだ。そう、君 の言う適りでね、これが僕らの状態で……。でも同時に、 このアルバムを聴くだけで、何か異常なまでの幸福感が 伝わってくると思うんだよ。それは多分、『自分はこうな んだ!』って、言ってしまえたことの喜びだと思うんだ。で-も僕が怖かったのは、 今作には『ベンズ』にあったもの がないから、みんなこれを聴いて『えっ?』って思っちゃ うんじゃないかっていうことだった。だけど、どうしよう もなかったんだよ。そ.う、誤魔化しようはなかった。僕 はそんな風に感じてたんだ、『言わなきゃならない』って。 何か偉そうだけどさ(笑)。でも、そうだな、これは[確 かな場所が見つからない』っていう苛立ちについてのア ルバムなんだよ」 修じゃあ、その「確かな場所が見つからない」という感 党というのは、あなたにとって、到達点なんでしょうか。 それとも、また、別の確かな場所を求めて、再び移動す ることになると思いますか? 「いや、これはこれで到達点だと思う。さっき自分でも思 ったんだよ一つまり、『アルバム全体に、苛立ちの感党 があって、そこから何とか逃れるための場所があるはず なんだ』って言った途端に、『あ、今、僕が言ったことは 嘘だな』って。だって、慰めの得られるような場所なん て探したって、何の意味もないと思うな。このアルバム はむしろ、不快な場所のど真ん中にがむしゃらに飛び込 んで、『そこから何か得よう』っていう感じなんだよ。ど んな作品でも曲がりなりにもいいものを作ろうとするな ら、とてつもないへヴィな確執があって当然なんだ。確 執だの、ストレスだの、頭の中の叫びだの、金切り声だ のが四方八方から聞こえてきて一。でも、そこに飛び 込むしかない。そして、また何か別のものが起こったり、 何かが出てくるのに任せるしかないんだ。『ベンズ』は、 本当に素晴らしいアルバムだったと思う。あのアルバム は本当に居心地のいいアルバムで、あの中の一曲をかけ ながら、ゆっくりと眠りにつく、そんな感じなんだよね。 だけど、このアルバムじゃ、それは出来ないと思う。こ れは動いている乗り物の中で聴くようなアルバムだよ。多 …ともかく『ここには解決方法はないんだ』っていうこ としか、僕には言えないんだよ」 參それは永遠に、ってこと? 「いや、勿論、解決はあるはずなんだよ。でも、『今、こ こにはない』ってことなんだ。アルバムをまとめている段 階では、『もしかして、まだ何か解答が見つかるんじゃな いか?』という希望もあったんだ。で、一週間半くらいの 間ずっと、毎朝5時に起きては、曲順を並べ替えたり、あ れこれやって、このアルバムが持ってる方向性っていう か、意味を見出そうとしてた。だけど、結局、自分が探 しているような意味性は、どこにも見つからなかったん だ。だって、元々解答なんてないものだったわけだから ね!それが良いことであるにせよ、悪いことであるにせ よ、これが実情なんだ一こうやって、僕らが作り上げ たひとつの作品の中においてはね。だから、この作品は、 [ベンズ』よりも多弁なアルバムだと思う。そう、もっと ずっと不穏なアルバムなんだよ」 籲じゃあ、あなた達のレパートリ一の中では屈指の名曲 と誉れの高い“リフト’’は、どうしてこのアルバムに入ら なかったんですか? 「何度も入れようとしたんだよ。でも、あの曲が入らなか ったのは、つまり、あの曲は“自分の場所を見つけるこ と’’についての歌だからなんだ。救われ、満ち足りてい て、守られている感じ……。でも、このアルバムを作って る時、僕はそういう感覚を一つとして感じたことはなか つた。だから、このアルバムに入れなかったんだ」 1998 その後の彼らを襲ったのは、「ロックの救 世主」という望みもしないハイプだった。 やがてそれは、音楽業界の既成のシステ ムや旧来然としたロックというフォーマッ 卜のみならず、かつての自分達の作品か らも卜ム,ヨークを遠ざけていく。「与えら れた愛情と共に、与えられた負の要素を受 け止めるべきだ」。98年初頭の日本ツア 一の最中、東京で行なわれた以下の0&ム の一部は、その後、映画『ミーティング,ビ 一プル,イズ,イージー]にも収録された。 籲この前の夜、“ラーギ一”を演奏する時、「僕らが日本 に初めて来た時に、ライヴに来てくれた人達に捧げます」 って風に言ってたんだけど、あれは何故? 「うん、僕ら、今はもう、あのレコ一ド(「バブロ.ハニ 一』)からは、あんまりプレイしなくなってて。何て言う か、あのアルバムにコネクトしなくなってることに罪悪 感を党えてるっていうか。でも、日本は、僕らをきちん と受け入れてくれた初めての場所で……。そう、“ラーギ 一”っていうのは、『自分が与えられた愛情とともに、与 えられた負の要素も受け止めるべきだ』ってことを歌っ てるんだ。でも、それって何て言うか、ただ無視出来る ようなことじゃない。これまでこの話を誰かとしたことっ てないから……。でも、そう、それは『与えられたように 受け止められるべきなんだ』。そして、それは、愛情とと もに与えられた。だから、同じように受け止められるべき うのは、もうどこにでも漂ってるんだ。だって、世界の分、そんな風にしか僕には言えないんだ。そう、だから… なんだよ。だからこそ、多分、僕はある意味で罪悪感を

ぷ爾 激職 感じたんだと思う」 春なるほど。じゃあ、やはり、この前の夜、“ノー,サブ ライゼズ”を演奏する時に、あなたは「この曲は、世界 のバンキング.システムについての曲」という風に紹介 してた。ただ、そういう事実というのは、シェアされて いると思いますか? 「みんなが僕の意図を理解してるかってこと?う〜ん… …多分、してないね。あの曲は、初めは、ものすごくパ 一ソナルなことを書いた曲だった。それから書き直したん だよ。で、書き直すと……。まあ、ずっとパーソナルなま まではあるんだけどね(苦笑)。で、ツアーが一段落して、 日常に帰ってくると、ある種のことに対して、ものすご く、強烈に、極端に動揺することになるんだ。それで、ド ラッグに逃げたり一勿論、そういうのって長くは続か ないんだけど、それから、馬鹿みたいに酒を飲んだり… …。ま、これもそんなに続かない(苦笑)。つまりは、そ んなことを色々とやるんだけど、結局はそこに置き去り にされてしまうんだ。で、そうした現実における、ある 種の物事が僕をものすごく怯えさせる。例えば、ある歷 史の本があってね。『20世紀の歴史:極端な時代』ってい う、エリック,ホブスボウムが害いた本なんだけど、この 本には第一次世界大戦から今までの世界史について書か れてる。で、その本が到達する結論のひとつが、“銀行シ ステムは崩壊する”ってことなんだ。休暇の間にそれを 読んだんだけど、僕にはそれがずっと頭から離れなかっ た。彼が書いてるのは、第三世界の抱えてる負債のせい で一僕自身はこういうことにあんまり詳しくないんだ けど一一どの国であれ、銀行システムの崩壊が起きるポ イン卜が来る、つてことなんだ。実際、去年の初め、メ になり、嘘つきになり、自分自身のひび割れを壁紙で隠 そうとする。みんなそうするし、それが大人になるって ことなんだ。で、赤ん坊を作って……それでおしまい(笑)」 鲁じゃあ、『スピン』誌の「97年フェイヴァリット,アル バム」のあなたの項目に、ティーンエイジ.ファンクラ ブの『ソングス,フロム,ノーザン,ブリテン】を挙げて いたのを読んだんだけど、それっていうのは、やはり、あ のアルバムが、『0ドコンピューター』とは一切無縁の、安 住の地のようなものを鳴らしていたからなんでしょうか? 「うん、彼らと一緒にツアーを回ったのは、すっごくファ ンタスティックだった。だって、彼らは“レディオヘッド がそうでないものすベて”なんだ(笑)。それにり丫のライ ヴの時さ(笑)、場所はハマースタイン.ボールルームだ ったんだけど、その日はあんまりいいライヴじゃなくて、 僕ら、結構荒れてたんだ。で、とにかくティーンエイジ の連中が楽屋に座って、みんなでマリファナを吸ってた んだよね。そしたら、ものすごく背の高い美人がいきな り楽屋に入ってきてさ、(しなを作って、アメリカ英語を 真似て)『ハロ〜、カルヴァン,クラインは見かけなか ったぁ?』とか何とか言うんだよ!でさ、連中、「(イギリ ス北部訛りで)いや、いないでごんす』(笑)。だって、も う周りには、そういうクソみたいな人種がうようよして てさ、もう最っ低なんだ。でも、そういうクソみたいな奴 らのことが、ティーンエイジの連中の琴線に触れたらし くてさ、みんなメチャクチャ受けまくってるんだよ。いや あ、あれは傑作だった(笑)。そう……連中がいたから、 続けられた。だって、あれはものすごくイカレた状況に なりつつある時だったからね。そう、彼らの曲が、僕らを 前に進ませてくれたんだ」 出された巨額の金のせいでね。で、そうした国の安い労 働力を使って、先進国の人間が便利さと贅沢を手に入れ てる。ナイキみたいな会社は、あのスニーカーでめちゃ くちゃに、いやらしいほどの金を儲けてるけど、それを実 際に作った人の手に渡るのは、その日のパンを買うだけの 金とか、そんなもんなんだ。そして、それは、市場原理 として正当化されてる。『世界経済はそういう構造になっ てるんだ、そういうもんなんだ、そうあるべきなんだ』っ てね。僕らの国は新しい国にものすごい額の金を貸し出し て……。そう、西欧っていうのは銭ゲバの高利貸しなん だよ。そのせいで、自力で発展する可能性がある国、自 力で発展しなきゃいけなI、国が死んでしまうんだ。僕ら はそうやって強奪してるんだよ。そう……でも、勿論、僕 があの曲を書いた時にはそういうこととは何の関係もな かった(笑)。ただ"ノー.サプライゼズ"は基本的に… 2000 2年近くの沈黙を破り、卜ム,ヨークが久方 ぶりに、その姿を現したのは、先進国から 理不尽な形で押しつけられた第三世界の 負債を帳消しにしようという運動、「ジュビ リー2000」への支援を表明するためのも のだった。以下の01&戎は、沖縄サミッ卜へ の抗議行動を喚起することを目的に、メー ルによる往復書簡形式で行われたものか らの抜粋だ。グローパリズム、第三世界の 飢餓、多国籍企業の支配一一『キッド八』に おけるテーマが、すでにここにある。 …僕は固くそう信じてるんだけど、そういうリムジンに乗 つて銀行を所有してるような連中は、家に帰って、自分 籲世界中をツアーで回ることで、西欧諸国に対するそれ まで自分自身が持っていたイメー ジが抜本的に覆される の周りに一つの世界を作り出して、その壁に出来るひびような経験があったら、具体的に教えてください。 を絶望的に埋めようとしてるんだよね。でも、いくらひ「うん、『0ドコンピューター』のツアーの終盤で、オース びを埋めようとしても、ひびはいくらでも出来てくる。ず っと、ずっと、絶え間なくね。それはクリントンにしても ブレアにしても同じで、西欧の指導者はみんなそう。連 中はみんな、ひび割れを塗って隠そうとしてるんだ。で も、大人になるっていうのは(笑)、そういうことなんだ ろうね。僕が気が狂いそうになるのは、『どうにかして、 こういう生活を築かなきゃいけない!』って感覚に襲われ る時なんだ。みんなと同じようにね。そこに選択肢はな い。君が誰であれ、それは君に迫ってくる。君は偽善者 トラリァに向かうフライ卜の間中ずっと寝ないでエドと 話してたのを觉えてる。第一世界と第三世界のギャップ、 格差について議論してたんだ。彼にこんなことを言った のを覚えてる。『くだらないカプセルに入ったまま世界中 を旅して、いろんなものを見てきた今、僕は楽しむべきだ とされてる自分の成功にそれほどの意味を感じない。自 分が特権的になったのを感じれば感じるほど、ちょっと 物事から外れて、世界を遠くから見るのを,された”み たいな気がするんだ』。続けていくためには、自分が読ん キシコではほとんど起きかけたんだ。発展途上国に貸し

だことや見たことを受け入れて、それを変えることが可能 「まあ、今、がパ0しに買収されて、ある意味、僕の玄 の方法って結局、自己満足でしかなくて、自滅的で、イ だって信じなきゃだめなんだ、と僕は彼に言った。『じゃ なきゃ僕はやっていけない』ってね。エドはいつも、僕が すごくナイ一ヴだって言う。あれは97年、それとも98年 だっただろうか?……まあとにかく、僕は希望を持ってる んだ。世界で、その貧しい国々で今何が起こっているか をより多くの人が理解すれば、それが何故起きたのか、貴 任は誰にあるのか、その間丨1\;1ド(国際通貨基金)と世界 銀行は一体何をしてたのか一そういったことをちゃん と認識出来るはずだ。\^10 (世界貿易機構)の裏には何 があるのか。08を飾る美辞麗句の裏には何かあるのか。 自分のスニーカーを作った人々がそのためにどんな代価 を支払ったのか。どうして毎年、まさに僕らの自由市場 原理の名のもとに何百万もの人々が死んでいくのか一 それについて多くを知れば知るほど、人は自分の"ナイ -ヴ”で“誤った情報に動かされた”、連中から見ると “厄介な’’主張にどんどん自信を持てると僕は思う」 籲レイジ,アゲインスト‘マシーンが、第三世界の安価 な労働力を使うことを前提に利潤を追求しているを 揶揄したヴィデオは見ましたか? 「オオーライト!クールそうなヴィデオだね。あの可愛い カーキのモデル市民達が着てるのは、物を考えない人用 の制服なのかも。でも、彼らには“ライフスタイル"が あるよね。僕も一つ欲しいな。君は欲しくない?で、 はそのヴィデオを流したの?スポンサ一が何て言っ たのか知りたいんだけど」 籲"ノー,サプライゼズ11というタイトルについて、あな たは地元オックスフオードに蔓延することなかれ主義、無 関心を表しているんだと語っていました。ただ、こうし たアパシーは、この時代に暮らす人々に共通するものに 思えます。こうした傾向は何に起因するんだと思います か? 「僕らはみんな、心配事や、他の感情で頭が一杯だ。会っ たこともなく、これから会うこともないどこかの人達、そ の苦しみも喜びも知らない人達のことを考えるのはとて も難しい。僕らはノイズで一杯なんだ。でもそれは、や っばりノイズに過ぎないんだよ。前に進んでいくには、無 関心やアパシーなんてスイッチを変えたり、インターネ ッ卜に接続するくらい簡単に消えちゃうものだ、ってこ とを僕は信じなきゃいけない。それに僕は、ジュビリー 2000のような抗議活動や連帯が、会ったこともなし、人達 に希望を与えるのを知ってる。政府をおびえさせて行動 を取らせたり、貧しい国々やその国民が、反擊出来るだ けの力を持つようになったりするんだ。關「や\^0、08 っていうのは、僕らみんながアパシーの方向に流れてい って、自分だけのちっちゃい小屋に引きこもって、自己 憐愍に浸ってた結果なんだと思う。そんなのクソ食らえ だし、僕は“ノ一サプライゼズ"みたいな驚きが何もな い世界には戻らない。ス卜リートで実際のアクションが 見たいんだ。今なら人はコミュニケ一卜出来るはずだし、 もっと"ノー,エクスキューゼズ言い訳はなし、にな るべきなんだよ。僕らはみんな、自分の政府が取る行動 に対して責任がある……そして政府は、今でも11^1ドや世 界銀行を支配してるんだ」 春あなたはこれまでも、メディアの中枢を握る多国籍企 業による独占的な活動について、激しい嫌悪を表明して きました。そうした問題意識は、どういった事実に誘発 されたものなのでしょう? 関先まで迫ってきてる話なんだけどね。メインストリー ムのメディアは今、麻酔をかけられて無感党になってる んだ。それをなんとかするにはオルタナティヴなメディ ア、もっとアンダーグラウンドなもののための場所を作 らなきやいけない。それってほんとにエキサイティングだ と僕は思う。スタジオではそれについてたくさん話してる んだ。僕らが現在、バ0し^タイム,ワーナーに所有され てることはちょっと恥ずかしくないかって?うん、その 通り。僕はめちやくちやに怖い。特に、周りが「そんなの 誰にも影響しないよ』なんて優しいノイズをたて始める とね一血が流れるのがもう確信出来るんだ。だって、わ かんないだろ?僕らのレコ一ドが、誰にもわからないよ うに検閲されるかもしれない。きつとパ0しは僕らより自 分達の立派な価値観の方を大事にするだろう」 2000 今もその輝きを少しも失うことのない、最 高傑作『キッド戎』。だが、それを生み出す 背景になったのは、世界の現状に対する絶 望的な認識と破滅に対するオプセッシヨ ン、そして、パンド解散の危機だった。だが、 晴天に恵まれたロンドンのリージェン卜, パークのベンチで行なわれた以下の0公八 において、卜ム,ヨークは、感動的な音楽 による破壊と再生について語っている。 「僕はもう続けるべきじゃないと思ってた。 でも、突然、音楽が生ま,れ始めたんだ」。 鲁この「キッド八!というアルバムについて、スタッフか ら説明を求められて、僕が最初に言ったのは、「このアル バムには感情表現がない」ってことでした。 「ぅん」 籲「それよりも筋肉の収縮だとか、発汗する時の毛穴の 収縮だとか、角膜の痙攣だとか、アシッドで落ちる直前 の感じがずっと続いてる感じみたいだ」って。 「うん、それパーフェクトだね。っていうのも、ずっと僕 が苦しんでたのは……自分の過去の作品に少しも感情的 にコネクト出来なくなってたことだった。そう、音楽を やる時、作った側はそれに対してある感情的な幅を持っ てる。でも、自分ではあんまりそれを意識してない。で も、その曲にまったく共感出来なくなる時が来て、初め て気づくんだよ。突然、『0ド、もう僕はこれにアイデン テイフアイ出来ない』っていうのがわかる。それってほ んとゾッとすることでさ。だって、そうなると、(自分の 過去の作品に)共感出来ないことに対して正直になるか、 それとも元の場所に戻ってその感情をもう一度作り直そ うとするか一一そのどっちかしかないんだ。でも、僕にと っては後者なんて、絶対無理だった。それに僕はそれま でずっと、極端に暴力的なムード.スウィング、気分の 変化に頼って曲を書いてきてた。それとか、常に……“何 かが起きる”場所に頼って、曲を書いてきたんだ。で、自 分では『僕は、きっとその場所で音楽を続けていくんだ』 って信じてたんだけど、そうじゃなかった。実際、その 問題に対して、僕はカタをつけていったんだ。まあ、個 人的な話で、あんまり深入りしたくないんだけど一そ ライラさせられるし、退屈だし、何の役にも立たなかっ たからね。だろ?実際、そういうやり方は、僕を冷たい 人間にしてしまったし。全然エキサイトしなくなった。そ う、このアルバムの言葉のほとんどはパーソナルじゃな い。言葉のかけら、ただのフラグメントでしかなくて、そ のものに意味はまったくないんだ。それよりも、それが 他の言葉とどう組み合わさっていったかを扱っているん だ」 籲で、このアルバムは明らかに、ワープ系のアーティス 卜、オウテ力だとか、エイフェックスノンインだとか、ポ スト,テクノ的なサウンドになってる。 「ぅん」 籲で、それと、「感情を表現したんじゃない」っていうコ ンテクストは関係してるんだと思う? 「うん、多分ね……(沈黙)。01僕に起きたのはこうい うことなんだ。あれは確か……。エイフェックス,ツイン のアルバムで、どのアルバムか今、党えてないんだけどー ―かなり昔のだったと思う。それを車の中で聴いてたん だ。買ったばかりの新車でね。で、それがちょっと後ろ めたくて……。それで僕はブレーキをかけて、スピードを 緩めた。すると、僕の車が走っていた道路が完璧に空っ ぽなのに気付いた。そう、党えてるのは、その時、突然、 閃いたんだ一『僕は何かを失くしている』って。僕はロ ック,スターになりたいとも思ってなかったし、『もうな りたくもない』って感じてた。それに、ギターの音を聴く のにもうんざりしてた。僕が聴いてたのは、(チャーリ 一.)ミンガスとエレクトロニックな音楽。僕にとって、 ギター,ミュージックや自分達が関わってきたようなも のは、人々にとっての感情的な壁紙みたいなものになっ てしまってたと感じてたんだ。で、そのことにム力ついた っていうか。ギターを手にする度、自分では何にもする 気になれなかったんだ」 參僕はこのアルバムを聴いた後の2日間、自分のスタッフ に、こんな風に厭味ったらしく、言い続けていたんだよ ね。「君達が日常的に感じてる、ちょっとした幸せなんて ものは、全部、誰かから与えられたファンタジーでしか なくて、政府が推奨してる合法的なドラッグみたいなも ので、ただ気休めなんだ。で、その気休めが結果的に君 達のクビを締めてるんだ」って。そういうアングル、もし くは、そういう感覚というのは、どこか、このアルバム にも流れてるものだと思し、ますか? 「……。ノー。いや、うん、すごくよくわかるんだけど… …。そう、君が2日間、周りの人達に言ってたようなこと、 『お前らはこんなにめちゃくちゃなんだよ。で、それに気 付いてもいないんだ!』ってやつ、僕はこの2年間、ずっと そんな調子だった。だからこそ、僕は意識的に努力しな きゃいけなかったんだ。何て言えばいいのかな……。しょ っちゅう人と派手な口論にならないために、『自分が考え てるのは、結局、死なんだ』って事実を、意識的に無視 しなきゃいけなかった。そう、気持ちのどこかで、僕は 『多分、僕達は続けていくべきじゃない』って思ってたん だと思う。でも……ある時点で、突然、音楽が生まれ始 めたんだ。言ってたようなことも全部包含してるのに、僕 には納得出来るようになった(麵『まだ続けていける、 今までやってきたことはまだべストじゃない』ってね(笑)。 『だから、いいんだ』って思えたんだ。こう言うと、ホン 卜馬鹿みたいなんだけど(笑)。そう、だから、『キッド パ]は、地震みたいなものになったんだよ。サウンド的に じゃなくて一ほら、地簾っていうのは、自分が当たり 前に思ってるいろんなことや理解してること、そういう すべてを一瞬にして破壊しつくしまうだろ?『ヒユン!』 ってね。でも、その結果、そこに自分と一緒に残される のは、人間のもっとも素晴らしい部分一『人が人と助 け合う』ってこと。『廃虚からお互いに手を貸して立ち上 がって、また続けていくんだ』ってこと。だから、僕がこ の『キッド八!っていうアルバムから感じるのは、多分、 それかな。だって、幸福っていうのは、人と一緒にいる ことから生まれるんだ。知らない人の目を見つめることか ら、道で出会った通りすがりの人とコネク卜することか ら希望は生まれるんだよ。幸福っていうのは、ファッキ ン,ポップ.スターなんかに見出せるものじゃない。曲 の中に見出せるものなんかじゃないんだ。だろ?だから ……だから、僕は、君のその意見には賛成出来ない」 #0^ (笑)。 「ただ、最初の頃、僕は『史上最高のディスコ,トラック を作る』っていう考えに取りつかれてた。歌詞がもう考 えられる限り暴力的で、ひどいようなやつをね」 馨では、このアルバムの中で、何がしかの形で描かれてい る、ある種の破滅を、あなたは積棰的に伝えたいと思い ましたか?あるいは、どっかその破滅そのものに期待し ているところが、0.1でもありましたか? 「ええっと、つまり、僕がそれを望んでるか?ってことだ ね。う一ん……。うん、多分、望んでた(笑)。でも、今、 実際に起きている洪水の映像を全部集めて、1時間に編集 して世界中で流せば、きっとみんな、『(世界の終わりの 大洪水が)もう始まってる!』って、信じるんじゃないか な?思うに、僕がとてもクレイジーだと思うのは、他に も世界には問題が山ほどあって……」 翁そうだね。 「僕は朝4時半に目が党めたりすると、ときどき理由がわ からなくなることがあるんだ。[何故、本質的にはかなり シンプルな問題なのに、それを解こうとする"意志”が どこにもないんだろう?』って。でも、考えられる唯一の 理由は、(人間の)貪欲さなんだよね。どんな時でも、い つだって人間って奴はホン卜贪欲で……。ただ、なんか、 そんな風に考えてると、キモチ悪い聖書的な話に頭がい っちゃうんだけど、そういうのって嫌いでさ。『ゲー!』っ て感じ(笑)。でも、最近、星について書かれた本を読ん でるんだ。その本の説によると、古代文明は世界中に“星 の地図’’を残してるんだって。で、科学者は、今、さま ざまな建造物や遺跡が、すべてある特定の時期の星の位 置と関係してるのを理解し始めてる。スフインクスって いうのは、明らかに2万5千年以上も前のものなんだ。な のに、それぞれの場所が、星の位置を指し示してるんだ って!で、その全部に"洪水”の神話があるっていうん だ。ほんっとイカれた話でさ!で、その神話群は、いか に数少ない人々が洪水を生き延びたか、そして、彼らが その知恵を後世に伝えるために、その神殿を建設したの を語ってる一いつの日か、僕らがそのすべてを発見出 来るようにね(笑)」 參へー(笑)。 「ま、ただそんなことで、今、僕の頭が一杯ってだけなん だけど(笑)。で、君が言ってた“破壊”だけど、多分、 僕らがこのレコードを作ってる時、ある意味、それこそ が、ずっと僕の頭から離れなかったもののひとつだった。 うん、アートワークを見てもわかると思うけど、それは間 違いない。ほら、2000年になる前、いろいろと黙示録的 な話が出て来ただろ?僕らはそれと戦うんじゃなくて、 むしろ支持したっていうか(笑)。僕はある意味、そうい うすべての黙示録的なイメージに没頭した。そして、自 分の頭の中にひっかかったピースがあれば、それが何であ れ、ポジテイヴに使おうとしたんだ。だって、重要なポ イン卜は、『そういった問題の大半は、解決出来る』って ことなんだ。そう、実際の世界においてさえもね。勿論、 いつか流星が地球にぶつかって来るかもしれない。そし たら、全部終わり、ってことなんだけど(笑)」 籲で、破滅について訊いたのは、俺、このアルバムのこ とを、「次世代の子供達を乗せる箱船を作るためのサウン ドトラック」って害いたんだよね。 「ホン卜?!そりゃクールだな!」 籲自分は乗れない、そのことはわかっていながら、自分 が作ってる箱船を作るためのサウンドトラック。 「うん、そうそう!僕の生涯のミッションは、スペース. シャトルを買えるだけの金を稼いで、それを月に飛ばすこ となんだ。あ、冗談だと思ってるだろ?」 籲うん(笑)。 「冗談じやないんだって!(笑)」 2001 ^記憶から失われてしまっている解決と連 ^|帯への道標そんなテ一マを持つ5讣 ,アルバム『アムニ一ジアック』以降、彼ら Iは「かつて奪われたもの」を少しずつ取り |戻していく。今に至る、彼らのステージの Iコミューナルなヴアイブは、ここでの「この I迷宮に閉じ込められているのは僕ひとりじ Iゃない」という認識をそのまま反映させた Iものだ。以下のロ&必は、かつてないほど Iの穏やかなムードの中、オックスフォード 丨駅近くで行われた会話からの抜粋だ。 I今回のアートワークのいたるところに使われている怪 この泣いてるアイコンっていうのは、結局、何な のか、教えてもらっていいですか? 「うん、こいつは、まあ、ちょっと変なミノタウロスなん だ(氺ギリシャ神話に出てくる、ミノスの妻パシパエと クレタ島の雄牛の間に生まれた牛頭人身の怪物で、クレ タ島の迷宮に閉じ込められ、貢ぎ物の人身を食べて生き ていた)。スタンリーは、ミノタウロスと迷宮にオブセツ シヨンがあってさ。で、僕も迷宮ってほんと、グレイ卜 だと思ってる。だって、ある意味、この音楽そのものっ ていうか。この音楽は、必死になって迷宮を抜けようと してるんだ。『絶対にここから出られない』っていうフィ 一リング。罠にはまって、どの方向に進もうと絶対に出 られないんだ。それもやっぱり、『アムニージアック』と 上手く合ってる、ある意味ね。僕はそう思う。ま、でも 誰にわかる?あいつ(スタンリー)はイカレてるんだか ら!僕にはわかんないよ!(笑)」 春じゃあ、『キッド八)に収められた曲の多くは、かなり の度合いで、リズムにフォーカスされていた。ただ、今 回のアルバムの収録曲からは、非白人的、非西洋的な音 階、あるいは、非キリスト教的なヴァイブがあるような 気がします。あなた自身は、どう思います? 「『アムニージアック』に?そりゃ面白いな。う一ん、多 分、そうかも。確かに、ブル一ズっぽいところさえあるか もしれない……。そうそうそう、ある意味、ゴスペルっ ていうか。でも、それって、実際のところは、すべて(チ ヤーリー.)ミンガスなんだよ。“ピラミッド.ソング” はミンガスの音調だし、“ユー,アンド.フーズ.ア一ミ 一?”も、僕にとっては、全部ミンガスなんだ。他に何が あったっけ?"アイ,マイト,ビー,ロング”も、ある 意味、スワンプ,ミュージックだし。そういうのって、全 部、僕がミンガスに取りつかれたところから出てきたん だ。でも、僕にはミンガスみたいにホーン用には害けなか ったから、全部をもう一度、ギターに戻した。そういう ことだね」 參前作『キッド八!には、“エヴリシング,イン.イッツ. ライト‘プレイス”って曲があった。で、そのタイトルと いうのは、ある意味、シニカルっていうか、アイロニッ クに感じられるものだった。 「ああ、もちろん」 籲ただ、このアルバムを聴くと、护らかにライ卜,プレイ ス、正しい場所っていうのが、どっかに存在していると いう感党一過去に存在したのか、未来に存在するのか はわからないけど、とにかく「ライ卜-プレイスは存在 し得るんだ」っていう、あなた自身のフィーリングを感 じずにはいられなかった。例えば、“ピラミッド,ソング" なんて曲は、まさにそういう曲だと思う。 「うんうん」 春で、それがもし仮に、その正しい場所というのが存在 するとすれば、それはどこにあって、それはどんな場所 だと感じているのか、教えて下さい。 「それって、多分、このアルバムで僕らが、いろんなもの を、いろんな人々とシェアしようとしていることと関係 してるんじゃないかな。何かを、経験を、シェアしよう とすることっていうか。ほら、『キッド/^はそういうん じゃなかった。だろ?それこそ、スタンリーがジヤケッ 卜のアートワークに、本の表紙を選んだ理由だと思うん だよね。彼もやっぱり、『アムニ一ジアック』が“半ば書 かれたストーリー”だっていうアイデアに入れ込んでたん だ。それを誰かに語ろうとしてるんだけど、全部はうま く思い出せない、っていうか。でも、それこそが、この音 楽がやろうとしてることだと思うんだよね。ある場所に ったことがあって、それを人に伝えようとしてる一こ れっていうのは、いろんなものをタIに出して、人々とシェ アすることなんだよ。例えば、“アイ,マイト,ビー‘ ロ ング”っていう曲は、レイチェルが僕に、何度も何度も 繰り返し言ってたことでさ一僕がある時期にいた、す ごく悪い空間から僕を引っ張り出すためにね。で、ある 日、僕には、実際、それが聞こえ始めた。最終的には、曲 として、そのことは書いてないけど。でも、起点となっ たのは、その、“コミュニケ一卜したい”って気持ちだっ たんだよ。また、他の人達とインターアク卜したい、交 流し始めたい、人と言葉を交わして、夜遊びに出かけて、 ただ、いろんなことを誰かと話したいんだってね」 籲じゃあ、"ライ卜,プレイス”があるとしたら、それは、 いろんな人とシIアする、その空間の中にこそ存在する、 ってこと? 「うん。絶対にね」 0 8110021ず#043 93